十二単衣(ひとえ)には、唐衣を着た後に裳(も)を付ける着方と、裳を付けた上から唐衣を羽織る着方があります。
雛人形では、裳を後から着付けることで唐衣の背の裏地付け等を省いていますが、吉祥雛は、本来の形式で唐衣全体を総裏作りし、裳の上から着付けることで、従来の雛にはない豪華さを演出しています。
おめりとは「柂(ふき)」の古称であり、袖口の裏地を少しだけ表地に返す(ずらす)仕立て方で、表地・裏地の重ねの色彩効果を高めます。現在でも、袷(あわせ)・留袖等の着物全般に活用されています。
吉祥雛は伝統のおめり仕立てにこだわり、丁寧に袖の重ねを作り、より一層の美しさを醸し出すよう心掛けています。
雛人形の胴体は、わらを巻いた胴体(芯)で作られています。吉祥雛は、加工は難しいのですが、防湿・防虫効果に優れた「桐製木胴」で製作しますので、型崩れせず、いつまでも美しい姿を保ちます。
一般のお雛様の手はプラスチック製です。吉祥雛には、熟練した職人が一つ一つ手彫りした木彫の手を、幾重にも塗りあげて使用しています。高度な技術と手間を要しますが、温もりのある美しい手元を表現しています。
古来、沓(くつ)を履くときに用いる布帛(ふはく)の履物です。
一般的には素足のままですが、吉祥雛のお内裏様は、桐で作った足に一つ一つ丁寧に襪を履かせています。見えないところにこそこだわりを持っています。
石帯は、公卿や殿上人にだけ許された、玉(石)を付けた帯。貴族の証しであり、正装の束帯着装に用いられました。魚袋とは、正式な儀式において、位を表わすために石帯の右腰に付ける装身具のことです。石帯と魚袋が、高貴な後姿を彩ります。
ご覧頂きたいのは女雛の裾縫いです。一般の雛人形は三枚仕立てで、上級の雛人形でさえも五~八枚はぎのみで仕立てられます。吉祥雛は八枚矧ぎに加え、襲ね(かさね)の部分を、48枚もの型を使い、少しずつ寸法を変えて段々に大きく仕上げています。柔らかな姿態と襲ねの色彩効果で、十二単衣の持つ流麗な美しさを演出します。
初代飯塚由蔵は、江戸時代の人形師年々斎一光に師事し、後に分家独立して自工房を興し、多くの弟子を育成、一光斎一門を築きました。五代目飯塚孝祥は、代々続いた江戸雛の技法を継承、新たな創意工夫を重ねながら、より気品のあるお雛さま作りに取り組んでいます。内閣総理大臣賞・通産大臣賞・埼玉県知事賞他多数を受賞、平成21年には伝統工芸士に認定される。
父であり、師匠である飯塚孝祥より、厳しく初代の理想思念と、雛人形作りを伝授される。他門下にも八年間修業に赴き技術の研鑽を重ねました。古来の技法を受け継ぎつつも、現代のニーズに合った華やかな造りを目指しています。平成26年に日本人形協会より節句人形工芸士に認定される。
「人形のまち岩槻」にある工房で雛人形を作り続けています。親から子へ「出し惜しみしないで、ありったけのものを教えて、もう自分には教えることがないと気付いたとき、次に自分は何を勉強しなければばらないのかの課題がわかるのです」と孝祥が語るように、常に一番美しい雛人形の姿を探求し、技術を磨き続けています。吉祥雛の華麗な姿は時代を超えてきた手仕事の結晶です。
一子相伝 父と子が机を並べ、共に切磋琢磨しつつ、一光斎一門の正統派技法の伝承に励んでいます
①埼玉県伝統工芸士認定証/②経済産業大臣指定伝統工芸士認定証/③内閣総理大臣賞